アサギマダラと『ALL LEPIDOPTERA』
「てふてふが一匹韃靼海峡を渡っていった」
これは、安西冬衛の「春」にある一行詩で、大学のときの授業にでてきました。確か病に臥して日本に戻れない作者が、その思いを海峡を越える蝶に託したというような解釈がなされていたような気がします。ですが、そのときの私は、海峡をわたる蝶なんているのかしらん、いるとしたらどんな蝶?とぐらいしか思いませんでした。
そして、10年くらい前、熱海のローズガーデンでアサギマダラという蝶が、フジバカマの蜜を旺盛にすっているのを見たことがあり、解説には、長い距離を渡る「旅蝶」でその距離は2000キロとありました。もしかしたら、韃靼海峡を渡った蝶はアサギマダラではないだろうか?卒業して何十年もたってから視覚的に記憶がよみがえってきたことを思い出しました。

これが、その時にみたアサギマダラです。
そしてその10年後、今開催中の展示『ALL LEPIDOPTERA』で、またアサギマダラに出会うことになります。

それほど珍しい蝶ではなさそうですが、蝶は好きでも嫌いでもない私には、その後アサギマダラを見ることもなく、まさか自分のギャラリーで再会するとは思ってもみませんでした。この一行詩が大好きだというわけでもないのに、こんな風に思い出すのも、不思議な気がしました。蝶の数え方は正式には「頭」なのだそうですが、この場合は「一匹」でなければ、蝶の強さと同時にはかなさをあらわすことはできない気がします。文学と蝶、いろいろ調べてみたくなりました。
こんな風に思いをめぐらせることができる『ALL LEPIDOPTERA』は、素敵な展示です。
標本はケースに入っていないので、ギャラリーの照明に映えて、まるで生きているかのようにそこにいます。
その種類の多さとテーマごとにアーティステックに並べられている工夫に、作家の本気度が感じられます。そして何よりも美しい。
是非『LEPIDOPTERA』(鱗翅目、蝶や蛾の総称)の世界へお越しください!蝶の美しさに感動するのもよし、私のように蝶との思い出をよみがえらせるのもよし、2週間の展示ですので18日まで(水、木休)
